こんにちは。
研究者として成功するために最も必要なものは論文業績です。教育経験や科学コミュニケーション能力といった論文以外の業績は昔より評価されていると思いますが、研究関連の就職先を探す際雇い主が最重要視するのは今でも論文の数と質です。そこで問題はどうすれば良い論文を量産できるかということです。良い研究をすることは当たり前なんですが、難しいのは良い原稿を書いてもレビュアーから高い評価が得られるとは限らない点です。ある雑誌でボロクソに批判された原稿が別の雑誌では好意的な評価を受けてすんなりアクセプトされる、という経験は研究者ならば誰もがしたことがあるはずです。レビューの質に大きなばらつきがあるため、良い研究を原稿にして投稿しているだけでは良い論文を出版できるとは限らないのです。しかし裏を返せば、良い(フェアな)レビューを受け続けることができれば効率的に論文を出版することができると言えます。仮に原稿がリジェクトされたとしてもフェアなレビューは原稿を改善するための重要なアドバイスなのでコメントを熟考して原稿(あるいは研究そのものの一部)を改善すれば次の機会に成功する可能性が飛躍的に上昇します。つまり、上質でフェアなレビューを頻繁に受けることは効率的に論文業績を伸ばす上で極めて重要なのです。今日のポストでは、フェアなレビューを受けるために大切な、誰でもできる3つの基本的な心がけを紹介したいと思います。 1.適切な雑誌とエディターのチョイスに細心の注意を払う 原稿に合ったレベルと内容がそれぞれの雑誌にあり、背伸びをし過ぎたり原稿を安売りしすぎたりすると原稿を適切に評価できるレビュアーとは巡り会えません。また、特定の分野に絞られた専門誌でも細かい専門的内容について熟知している研究者が編集委員の中にいるとは限りません。アンフェアで苛だたしいレビューを貰う原因の多くは、原稿が雑誌のレベルと合っていないこととエディターが専門知識を持っていないことにあります。そのため、 適切な雑誌とエディターの精査は良い論文を書くことと同じくらい重要だと私は思っています。特に気をつけてチェックすべき項目として以下の3点が挙げられます。
こういった情報の中から雑誌とエディターを絞り込み、複数候補ある場合はその中で最もインパクトの高い(拠点地域・インパクトファクター・歴史等を総合的に評価して)雑誌に投稿する、と言うのが基本的な戦略となります。最初に候補に上がる雑誌は少なくとも5つくらいはあるでしょうから、それらの編集員全てを一人一人チェックするのは結構時間がかかります。しかし良いエディターを選ぶことで見込まれる出版までの時間短縮を考えればこれは十分なリターンの見込める投資だと思います。 2.レビュアー候補者リストを作る 原稿が適切に判断されそうな雑誌とエディターが見つかったとしても、そのエディターが良いレビュアーを見つけてくれるとは限りません。そのため、エディターには常に好ましい(あるいは好ましくない)レビュアーを提案するべきです。雑誌の投稿手順にレビュアーの指定がデフォルトで組み込まれている場合は手順に従ってレビュアーの提案を、そうでない場合も必ずカバーレターか独立の添付ファイルでレビュアーについての提案を行いましょう。 あらかじめ自分の原稿と関連する研究者の中でレビュアーとしてふさわしい(ふさわしくない)候補者リストを作成しておくと効率的です。ふさわしくない候補者を提案する場合には特に理由の明記を忘れずに行いましょう。学会へ参加する際はできる限りたくさん関連分野の研究者と接し、彼らの人柄や研究内容を詳しくチェックしてこのリストを随時アップデートしておくとさらにベターです。 3.原稿フォーマットは簡潔に見やすく・カバーレターは丁寧に エディターに受理された原稿がどのようなレビュアーに回るかは担当エディターの裁量に委ねられています。一般的にはエディターが編集委員で共有しているリストのキーワード検索や知り合いのつてを頼りにレビュアーを探します。しかし2−3名の信頼できるレビュアーを探すのは困難で、時には何十通もの招待メールを送っても誰一人レビューに応じないということもあるようです。さらにエディターのほとんどは忙しい現役研究者であり、エディターとしての仕事に対する金銭的報酬は受け取っていません。そのため、エディターが限られた時間をレビュアー探しに投資する時間は「ほぼゼロ」がデフォルトで、上で紹介したような著者からの提案があれば少しマシになるかなと言う感じでしょう。 このような状況で、エディターに少しでも良いレビュアーを探す「やる気」を出させるために私が提案したいのが彼らの仕事に対する敬意を形で示すことです。原稿フォーマットは簡潔に見やすく、カバーレターは丁寧な文調で要点をまとめて書く。これは基本です。さらに、所属機関のロゴや住所の記載された「公文書テンプレート」があればそれを使ってカバーレターを作り、最後に直筆のサインをしてスキャンしたものを使うと良いかもしれません。なんでも良いのですが、とにかくエディターに真剣な「形」を見せるのです。リーズ大学教育学部の行った調査結果では、研究者の多くはエディターの仕事を「喜びの源」ではなく「無報酬の義務」と感じています(日本語の紹介記事)。それでも研究者が無報酬で編集委員を務めたり査読を行ったりする現行システムを成り立たせているのはプロ意識です。ですから、エディターのプロとしての意識を少しでも喚起するために原稿の見た目・形をポリッシュするのは重要なことです。若手研究者はプロ集団の中では後輩的立場にありますが、その立場なりのプロ意識を表明することで良いレビュアーと巡りあう可能性が少し上がるかもしれないのです。 最後に 論文を量産せずに研究者として生き残ることはできません。研究ポストを巡る競争は年々激化していて、並の業績ではよほど政治的に恵まれた環境にいなければ最終候補者リストに残ることすら難しいでしょう。この状況をさらに難しくしているのが、良い研究をしていても良い論文が出せるとは限らない点です。これは研究者としてはとても苛だたしいことですが、雑誌を運営しているのも人間なので、人間活動につきまとう制約の一つと割り切って対処するしかありません。今回のポストではこういった論文出版を巡る理不尽さをある程度緩和するためには良いレビュアーとの巡り会いが肝心であることを説明し、良い出会いを呼び込む可能性をあげるために私がしている3つの簡単な心がけを紹介しました。 それでは、また。皆さんの研究がフェアなレビュアーと出会えることを祈っています。
2 Comments
10/28/2022 03:39:20 am
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10/29/2022 08:44:43 pm
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AUTHOR北欧で研究している日本人進化生物学者 ArchivesCategories |